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2024年度ブロックチェーン公開講座の振り返り

k-ito21

東京大学ブロックチェーンイノベーション寄付講座 特任研究員の伊東です。本稿では、昨年末に終了した2024年度ブロックチェーン公開講座について、背景や目的といった基本的な部分を中心に振り返ります。


講座の具体的な内容を知りたい方や、2025年度の受講を検討されている方の参考になれば幸いです。


何を行ったのか?

4月から12月までの約9ヶ月間に渡り、ブロックチェーン関連の技術に関する学習プログラムを提供しました。


スケジュールは、大きな流れとして前半は座学 (週1で1回105分) でBitcoin Protocolの仕組みからZK (ゼロ知識証明) までを学習し、後半はグループワークでWeb3プロダクト開発を行う形式でした。


参考用に、各講義の要約を以下に紹介します:


01. ガイダンス・ブロックチェーン概要

講義全体の目的や運営組織、受講方法などの基本情報を紹介しております。また、ブロックチェーンにおいて基本的な、非中央集権型の考え方も学びました。


02. ビットコインその1

ビットコインプロトコルの基本概念を解説しており、基礎固めに最適ですが、暗号技術の初歩も必要とされます。


03. ビットコインその2

UTXOモデルやトランザクションの構造、各種スクリプトの仕組みなど、技術的な側面を深堀りしており、初学者にはやや専門的な部分も含まれます。


04. ビットコインその3

マイニングの仕組みや分散型コンセンサス、PoW (Proof of Work)の仕組みなど、ビットコインの運用面を詳述しており、中級者向けの高度な技術解説です。


05-06. イーサリアム

Bitcoinとの違いやスマートコントラクトの概念、アカウントモデルの詳細を解説し、実践的なアプリケーション開発への導入として、初級から中級者向けの内容です。


07-08. イーサリアム2.0

Ethereumの大規模な仕様変更(Proof of Stake、レイヤー分離を中心)を体系的に説明しており、基礎知識がある人向けの高度な技術講座です。


09. Solidity開発の概要(スマートコントラクトプログラミング)

Solidityやスマートコントラクトの基本概念、セキュリティや法制度など理論的な背景を座学で学ぶ内容で、初学者が基礎を固めるのに適しています。


10. DAOの簡易実装(スマートコントラクトプログラミング)

開発環境の構築からDAOの簡易実装まで、実践的なSolidityプログラミングを通じてコーディングスキルを磨く実装演習で、中級者向けの内容です。AIを活用して開発を行いました。


11. Web3のためのWeb2技術

Web3アプリケーション開発に必要なWeb2技術の応用方法やシステム設計を、具体的なサンプルプログラムを通して解説しており、初学者が全体像を掴むための内容です。


12. DApps・エコノミクス設計入門

トークンの価値づけやインセンティブ設計をCryptoeconomics/Tokenomicsの視点から体系的に解説しており、基礎知識を持った中級者以上がより高度な設計理論に挑戦するのに適した内容です。


13. Dappsの事例(DeFi)

DeFi領域の代表的な事例(例:Uniswap、MakerDAO)を通して、中央集権型システムとの違いやDAppsの特性を具体的に示しており、非中央集権のシステムの設計方法についての内容です。


14. Dappsの事例(DAO)

DAOの設計理念や意思決定の流れ、ガバナンストークンの役割などを具体例を交えて解説しており、ブロックチェーンにおける自律分散型組織の理解を深められる内容です。


15. Web3の法規制

トークンの種類やその法的性質、関連する金融・決済法規制、さらにはDAOに関する法規制まで幅広く整理して解説する内容です。


16. L2技術

ブロックチェーンのスケーラビリティ問題に対するLayer2ソリューションであるOptimistic Rollupの仕組みや事例を解説しており、技術的背景を理解している中級者向けの高度な講義内容です。


17. ZKその1(概要・理論)

ゼロ知識証明の基本概念、入力の秘匿化や検証コストの一定性など理論面を中心に解説しており、PlonKというzkSNARKSのプロトコルに詳細に解説しています。暗号理論の基礎知識が必要な上級者向けの内容です。


18. ZKその2(実装)

Circomやsnarkjsを用いたゼロ知識証明を用いたアプリケーションの実装方法を、具体的なコード例やスマートコントラクトとの連携を通じて詳解しており、実践的なプログラミングスキルが求められる中級以上向けの講義です。


19. ZKその3(応用事例)

Zcashをはじめとするゼロ知識証明の応用事例を紹介し、プライバシー保護や検証コスト削減の具体的なケーススタディを通して実用面を解説しており、基礎理論を踏まえた上級者向けの内容です。


20. 様々なブロックチェーン:solana

Solanaの基本概念やネットワークパフォーマンス、決済やNFTなどの実用例を解説し、ブロックチェーンとしての特性にとどまらずコミュニティ活動についても紹介しています。


21. WebX会場での出張講義

Web3を代表するプロジェクトの方々のパネルディスカッションを聴講しました。普段座学では得られないWeb3の実業家の声を学べる内容です。


22. 相互運用性

ブロックチェーン間のデータ交換(クロスチェーン相互運用性)の概念と実現方式(橋渡しと標準化)を、Polygon PoS Bridgeなど具体例を通じて理論と実践の両面から解説しています。


23. Polkadot, Astar Network

Polkadotのエコシステム(Relaychain、Parachainなど)とそのクロスチェーン相互運用性の仕組みを概説し、Astar Networkの技術的詳細を交えて解説しています。


24. エンタープライズブロックチェーン

企業向けブロックチェーンの設計思想と歴史、HyperledgerやCordaなど主要プロダクトの概要を示し、データの非公開性や管理機能などエンタープライズ利用の特徴を論じています。


25. 最近のWeb3技術

OrdinalsやBRC-20、Intentsなど、ここ数年で注目される最新のWeb3技術の仕組みと応用例を紹介し、トランザクション内データ表現の新たな可能性に焦点を当てています。


 この講座は、以下のスポンサーのおかげで誰でも無料で受講可能な形式で実現することが叶いました。スポンサーの皆様からは金銭面のみならず、さまざまな面で多大なるサポートをいただきました。心より感謝申し上げます。  

【寄付者(五十音順、敬称略)】 
Casley Deep Innovations株式会社
株式会社グッドラックスリー
Sparkle AI株式会社
トヨタ自動車株式会社
株式会社三井住友フィナンシャルグループ
渡辺創太


なぜ行ったのか?

本講座の目的はもちろんブロックチェーンに関連する知識の普及ですが、より具体的には


  1. 新しいトピックが次から次に登場するため体系的な学習が難しくなっている

  2. 日本語の学習資料が不足している


というふたつの問題意識が動機でした。そのため本講座は、


  • 分野間のつながりが解る形で体系的に行う

  • すべて日本語で行う


ことをあらかじめ決めたうえで設計を行っています。

このようなチャートを用意してから講義設計に臨みました
このようなチャートを用意してから講義設計に臨みました


どのように行ったのか?


座学講義

4月から9月にかけての座学講義は、オンラインと実地開催を組み合わせたハイブリッド形式で実施しました。受講申込数が7,000超に対して教室の収容可能人数は約70名と限られていたため、実地参加は希望者の先着順となりました。

*講義の動画はYouTubeにアーカイブし、受講者が後からでも視聴できる状態にしています (ただし一般公開はせず)。


座学はほとんどの会をこの教室で行いました
座学はほとんどの会をこの教室で行いました

また公開講座では、座学だけでなく、業界を先端で進めている人の考えに触れる機会を設けるためのWebX会場での出張講義や、受講生同士の交流ができる懇親会も企画しました。

WebX会場での出張講義&夏の懇親会
WebX会場での出張講義&夏の懇親会


座学講義のオンライン試験

6ヶ月にもわたる座学講義の理解度確認を目的としてオンライン試験(選択式)を実施しました。


回答者には、この試験の成績に応じたPolygon Network上で発行されたSBTが発行されています。


グループワーク

10月以降のグループワークは最後の成果発表会を除きオンラインでプログラムを進めました。

*受講者が想定以上に多かったため、グループワークの参加者は選抜せざるをえませんでした。オンライン試験の点数を元に選抜いたしました。


運営側はまず、事前に収集したアンケートをもとに参加者のグループ分けとメンターの割り当てを行いました。グループ分けは、興味関心が近いながらもメンバーの専門性に偏りが生じないよう心がけました。


何をどのようなプロセスで制作するかについては基本的に各グループに一任していましたが、必要に応じてメンターがサポートに入りました。


また期間中は並行して、希望者を対象にLinuxの基礎からDApps開発までをカバーするプログラミング演習補講も実施しました。


最終的には、各グループが成果発表として実地でプレゼンテーションを行い、その発表に対して受講生全員による投票で優秀賞を決定しました。評価基準は「Why Blockchain」「新奇性」「完成度」という3項目で構成されています。


成果発表会直前の緊張感が伝わってくる写真
成果発表会直前の緊張感が伝わってくる写真

おわりに


改めて振り返ると、結構いろいろなことを行ったなあと感じます。


他方で実際に講義を行うと、初学者にとっては座学の内容が難しすぎたり、教室で講義を受けていただいた方々の交流をうまく促せなかったりと反省すべき点も多くありました。


次の記事では、これらの反省点を踏まえて改善した2025年度ブロックチェーン公開講座の概要について紹介いたします。



 
 

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